高草木 裕子





Hiroko Takakusaki, 2004

  「怪しい夜」

  20:30。
  湿度の高い生ぬるい風。
  満月にかかる雲が怪しく流れ飛ぶ。
  一際強く吹いた風が
  T字路の角に立っていた高校生のスカートを
  めいっぱい吹き上げた。

  肘を曲げている姿は真後ろからだと
  祈りをささげているかにも見えたが
  手にしていたのは携帯で
  メールを打っていたのだとわかる。

  今や月は雲に完全に隠れてしまった。

  21:21。
  「終わった」という電話があり
  迎えに出る。
  ゆるやかなカーブでハンドルを切る。
  木の葉がざわ~っと舞い上がった。
  ヘッドライトに照らされて
  一枚がピンク色に光った。

2004.8

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