命・連携  ~芽が伸びたしわしわのジャガイモより~   (JAALA/「国境を越えた民衆の連帯へ」展 出品作品コメント)

高草木 裕子

Hiroko Takakusaki, 2008, Pencil on paper

 芽が長く伸びたしわしわのジャガイモをご覧になったことのある方は多いと思います。あるいはご自分でジャガイモを栽培した経験のない方であればお目にかかったことがないかもしれません。これは、昨年収穫した自家製ジャガイモの様子なのですが、ネットの袋の中で密集し、芽を伸ばしています。芽は薄赤紫色で力強く伸びています。ジャガイモは深い皺をたたえ、すでによぼよぼです。芽はひとつのものもあれば5つほどのもあります。既に芽の長さはジャガイモの直径の3~5倍の長さになっていて芽からは小さな根がのぞいています。先端には丸まった小さな葉もついています。土も水分もない劣悪な環境下で持てる限りの力を振り絞り次世代にいのちのバトンを渡そうとしているのです。
 滅びんとする姿と新しいいのちの姿が同居しているのを見ていのちの甦生、連携を感じました。わたしは芽の伸びたしわしわのジャガイモの絵を描き始めました。
 今年の3月、来日を断念したアントニオ・ネグリ氏不在のまま代読映像とディスカッションによって行われた講演会『新たなるコモンウェルスを求めて』を聴き、アントニオ・ネグリ氏、マイケル・ハート氏共著の『マルチチュード』を読みました。マルチチュードについて語る中で「貧者の豊かさ」という項があり、「実際、貧者は多くの点で、途方もなく豊かで生産的である。」と書かれていました。世界のさまざまな事柄について分析し、イメージや価値の逆転を図る点に共感しましたが、食料不足による栄養失調状態(飢餓)に苦しみまさに死に直面しているとしたら「途方もなく豊か」とは言い難いです。1日1ドル以下で生活している絶対的貧困層は、1995年の10億人から2000年には12億人に増加しており、世界人口の約半分にあたる30億人は1日2ドル未満で暮らしているそうです。
 今回のJAALA「国境を越えた民衆の連帯へ」で議長の針生一郎氏の出品要請文では、ネグリ氏とハート氏の『帝国』『マルチチュード』について触れられたうえで結びの部分に、「どの国もかけがえのない歴史の一時期を経験している以上、進歩的とか後進的といった尺度だけで測ってはなりません。むしろ芸術家がどれだけ国家とナショナリズムを離れて、プリミティブな自己の原点をどこまでほりさげているかを、相互に学びあうのが国際交流の課題でしょう。そういう芸術家の姿が民衆の国際連帯の文字通りコア(核)なのです。」とありました。私は「マルチチュード」「<共>の生産」について考えていましたので出品しようと思いました。

Hiroko Takakusaki, 2008, Pencil on paper

 前述の「芽の伸びたジャガイモ」を84.5cm幅のロール紙に描いていきました。紙の長さは4mになりました。描いたジャガイモの数を数えましたら73個ありました。その上に、今年すでに収穫のあったまるまると大きなジャガイモ、世界地図、飢餓率35%以上の国を集めたもの、転寝する女性と出産する女性を描いて切り取ったものを貼ったトレッシングペーパーのロール紙を重ねました。国旗は当初絵の裏面に描く発想でしたが、今回裏面を見せる展示としないのでジャガイモの上に重ねました。こちらは国連WFP協会のハンガーマップより飢餓率5%以上の国の国旗を80描いております。初めて見る国旗もたくさんありました。貧しさが豊かさとなるように、私たちは連携していくことができるでしょうか。アートは<共>であり、一役を担える可能性を含んでいると思います。

(2008.7.8)

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